父と珈琲時光

古いブログを消す前に、自分に重要なものをいくつか選択して載せる事にしました。

(2010年3月18日)

私には侯孝賢監督の『珈琲時光』という、とても好きな映画があります。
人生の中の見落としがちな一コマ、そして何気ない生活のいたる場面に溢れている小さな幸せに気が付かせてくれる映画です。
この映画では、台湾出身の作曲家江文也が取り上げられ、主人公達が彼の軌跡を辿って行く場面があるのですが、私も最近同じ様な事をしてきました。
兄と父と、たった一日ですが父の思い出の軌跡を辿ってきました。 

私の父は熊本出身、上京して働きながらデザイン学校に通い、その後ファッション業界で働いていました。
その時に住んでいた街、働いていたお店、思い出の場所に実際に行ってみる事になったのですが、既に40年近く前の事、私達は思い出の全てがそのままその場所に残っているとは考えていませんでした。
しかしその一日は、本当に吃驚する事ばかり起こったのです。
駅を降りてすぐ、街の景観がガラリと変わった事にガッカリしていた父、けれど諦めず歩いてゆくと待っていたのは、昔と変わらない建物、そして人でした。
愛しきもの達が、その場所に残っているのです。 これには本当に感動致しました。
父の懐かしみ、嬉しそうな顔が忘れられません。
40年の時を経ているのですから、変わっていた事も勿論ありました。
しかしそれが生きている事だと感じられました。 

今の世の中の主な流れは、注目されれば大量に生産され、大量に消費された後は忘れ去られる世の中です。
そんな中で継続され残されているものがあるという事。
"継続は力なり。"とはよく聞いてきたけれど、改めて凄い事だなと感じました。
私も頑張りたい...頑張りたいです。 

Wikipediaによると、珈琲時光とは「珈琲を味わうときのように、気持ちを落ち着け、心をリセットし、これからのことを見つめるためのひととき」というテーマで制作されたとの事です。
まさにそのような体験が出来た一日でした。 

珈琲時光では、『エリカ』という喫茶店が登場します。
この映画を初めて観た当時、私はすぐにこの喫茶店に飛んでいって、一杯の珈琲を飲みました。
とても美味しかったのを今でも覚えています。
しかしその後、マスターがお亡くなりになられた事を聞きました。
もう3、4年前の事です。
今現在、エリカがどの様になっているのかはわかりません。
急に懐かしくなってインターネットで色々調べていたのですが、あまり情報がありませんでした。
その代わりとは違いますが、エリカを紹介しているサイトにてマスターの言葉が残されていました。
最後にご紹介させて下さい。

「珈琲に、いのち注ぐや 梅雨の朝」 なにもありません、珈琲だけです。ちょっと腹に入れたいという方には、トーストならお出しします。